食べ物の腐敗と食中毒

微生物の働きを抑えて食中毒のリスクを低減できます。

食べ物を腐敗させたり、食中毒を起こしたりする微生物とはどのようなものなのでしょう。また、食中毒は実際どのぐらい起こっているのか、腐敗とも関連する食品廃棄(食品ロス)がどのぐらいなのか見てみましょう。

腐敗や食中毒を起こす微生物

食べ物と微生物のかかわり

私たちの食べ物は、細菌やカビといった微生物にとってもおいしい食べ物です。微生物には、食べ物を腐敗させたり、食中毒を起こしたりするものがあります。

食べ物に微生物が付着する

微生物は肉眼では見ることができませんが、あらゆるところに存在します。例えば、土壌中、空気中、調理台の上、エアコン、人の手指など至るところに存在しており、そこから食べ物に微生物が付着します。食品工場では衛生管理がされていますが、微生物を完全にゼロにすることは難しいと言えます。
また、野菜や卵など加工される前の食べ物の材料にも、微生物は付着しています。通常は加熱調理することによりこれらの微生物は死滅しますが、中には加熱しても生き残ることのできる微生物(耐熱性菌)もいるため注意が必要です。
食べ物には微生物が付いているものだと考え、対策を行うことが大切です。

食べ物の中で微生物が増える

食べ物に付着した微生物は、生育に適した条件(温度、pH、水分、栄養など)になると「分裂」により増殖します。仮に10分に1回分裂する微生物が1個付着したとすると、10分後には2個、60分後には64個、5時間後には約10億個にまで増殖する計算となります。
微生物が増殖する速さは種類によって異なります。生育に適した条件であれば、例えば腸炎ビブリオ菌では8分に1回、黄色ブドウ球菌では27分に1回分裂します。
また、微生物によって生育に適した条件もさまざまです。通常は30~37℃付近が生育に適した温度ですが、低温で増殖できる微生物(低温細菌)もいます。

食べ物の腐敗や、食中毒のリスクが高くなる

これらの微生物が食べ物の中で増殖し、食べ物の成分が分解されることで、腐敗が起こります。また食中毒の原因はいろいろありますが、食べ物の中で微生物が増えた結果として食中毒が起こる場合も多いのです。
このように、微生物の増殖は食べ物の腐敗や食中毒のリスクを高めていきます。

腐敗・変敗とは

  • 腐敗とは、微生物の増殖によって食べ物の成分が変質し、食べられなくなる状態のことです。同じように微生物によって食べ物の成分が変質する場合でも、人間にとって有用な場合には発酵と呼ばれます。

    変敗という言葉が使われることもあります。一般的に、たん白質が分解されて有害な物質を生成する場合を腐敗、炭水化物や脂肪が分解されて風味が悪くなり食用に適さなくなることを変敗と使い分けられます。

    同じように微生物によって食べ物の成分が変質する場合でも、人間にとって有用な場合には発酵と呼ばれます。例えば、代表的な発酵食品である味噌や醤油、ヨーグルトなどは、微生物の力を借りて大豆や乳の成分を変質させてつくられます。

<腐敗現象>
状態 現象 原因となる微生物 おもな原因食品
着色 菌体内に色素を持っている微生物が生育した時に、その食品自体に色が現れる (カビが生育した時の着色も含む)。 微生物全般 ハム・ソーセージ、パン・菓子類、タマゴ惣菜
異臭 微生物が生育した時に、代謝産物として臭いのある物質を作る。 嫌悪を感じる臭いから、甘い臭い、アルコールに類似した臭いなどさまざま。 バチルス属、乳酸菌、酵母 食品全般
ネト 食品中の糖から粘り状の物質(ネト)が生成され、食品に粘りが出る。粘り状の物質は主に「デキストラン」で、透明で臭いがないのが特徴。 乳酸菌 かまぼこ
食品中のたん白質、アミノ酸類から粘性物質が生成される。臭いがあり上記のネトに比べて粘性が高い。 バチルス属 肉加工品
軟化 微生物が食品内部に侵入して、食品の組織を分解する。 バチルス属 かまぼこ
膨張 主に酵母が起こす現象であり、包装が膨らみ、ひどいときは破裂する。
パンを製造する時に酵母が二酸化炭素を出して生地を膨らませるのと同じ現象。
乳酸菌、酵母 漬物、洋菓子
カビ発生 カビが目で確認できるほど生育した状態。 カビ 餅、パン・菓子類
これらのほかにも、液体中にカビが発生して「もや」がかかった様な現象や、微生物が多く生育して液体を濁らせる現象などがあります。
参考資料
  • 食品微生物ハンドブック(好井久雄・金子安之・山口和夫編、技報堂出版、1995)

食中毒とは

食品や容器を介して人体に入った食中毒菌などによって引き起こされる病気のことです。食中毒菌がいても見た目や臭いは普通の食品とほとんど変わらないことがあるので注意が必要です。
種類 細菌名 特徴 主な原因食品 主な症状


腸炎ビブリオ 海水中に生息している。増殖は極めて速いが、真水では増殖できない。 魚介類、特に夏期に沿岸で獲れたもの 腹痛、下痢、吐気、嘔吐
サルモネラ属菌 乾燥に強い。家畜、家禽、魚介類、ペットなどに広く分布している。 卵・食肉及びその調理加工品などや、家畜の糞便に直接・間接的に汚染された各種食品 発熱、腹痛、下痢、嘔吐
カンピロバクター 家畜、家禽、ペットなどに広く分布している。大気中では増殖できない(酸素の少ないところを好む)。少ない菌数で食中毒を発症する。 食肉、特に鶏肉 発熱、腹痛、下痢、嘔吐
リステリア 河川水や動物の腸管内など環境中に広く分布している。
4℃以下の低温や、12%食塩濃度下でも増殖できる。
乳製品や食肉加工品、魚介類加工品、サラダ 発熱、吐気、下痢、頭痛、ふらつき、けいれんなど







セレウス菌
(嘔吐型)
土壌、空気中など広く分布。通常の加熱調理でも生き残る。毒素は121℃でも壊れない。 焼き飯、ピラフなどの米飯類 吐気、嘔吐
黄色ブドウ球菌 ヒト、動物の皮膚、粘膜に広く分布。塩分や乾燥に強く、酸素がなくても増殖する。毒素は100℃でも壊れない。 弁当、おにぎり、調理パン、和・洋菓子 吐気、嘔吐、下痢
ボツリヌス菌 土壌などに広く分布。通常の加熱調理でも生き残る。酸素のない条件で増殖する。 缶詰、びん詰、いずし等の漬物(なれずし)、ソーセージなど 複視、嚥下麻痺、呼吸困難





病原性大腸菌 ヒト、動物に分布。少ない菌数で食中毒を発症する。 糞便に直接・間接的に汚染された各種食品 下痢、腹痛、発熱、吐気(腸管出血性大腸菌O157では溶血性尿毒症で死亡する場合もある)
セレウス菌
(下痢型)
土壌、空気中など広く分布。通常の加熱調理でも生き残る。 スープ、肉類、野菜など 下痢、腹痛
ウェルシュ菌 土中、水中、ヒトや動物などに分布。通常の加熱調理でも生き残る。酸素のない条件で増殖する。 加熱調理食品。特に大量調理されたカレー、スープ、弁当など 下痢、腹痛
参考資料
  • 微生物がおこす食中毒予防早見表(日本食品衛生協会)
  • 食品微生物の科学(清水潮著、幸書房、2001)

日本における食中毒の現状

事件数と患者数

2017年の食中毒発生は患者数16,464名、事件数1,014件ですが、厚生労働科学研究では、実際には統計の数十~数百倍の患者が出ていると推計されています。
食中毒の原因は細菌の場合が多いですが、他にもウイルスや寄生虫、化学物質、自然毒などが原因で発生しています。ウイルスについては、最近注目されているノロウイルスも含まれ、フグやキノコなどの自然毒による食中毒も多く発生しています。
  • ※1寄生虫
    最も多いのはサバやアジなどのアニサキス、次にヒラメなどのクドアとなっています。

    ※2化学物質
    最も多いのは、鮮度の落ちた魚(ヒスタミンという化学物質が生成する)。他は洗剤の誤飲など。食品添加物によるものはありません。

    ※3自然毒
    フグ、アオブダイなどの動物性のものと、キノコ、トリカブトなどの植物性のものがあります。

参考資料
  • 厚生労働科学研究成果データベース「宮城県における積極的食品由来感染症病原体サーベイランスならびに急性下痢症疾患の実被害者数推定」(平成21年度)

細菌による食中毒患者数の内訳

加熱に強いウェルシュ菌や少量でも食中毒を発症するカンピロバクターや腸管出血性大腸菌が多く占めており、十分な対策が必要です。

食中毒のリスクはやはり夏が多いが…

  • 食中毒は夏場さえ気を付ければと思っていませんか?
    実は春・秋も食中毒は発生しています。そして冬場は、ノロウイルスなどのウイルス性の食中毒が発生しやすいと言われています。
    (詳細は「食中毒発生状況推移データ」をご参照ください)
    では、どう対策を行えば良いか?
    食中毒予防は「つけない」「増やさない」「やっつける」が原則と言われています。
    一般家庭では、「つけない」は手洗いを十分に行う、「増やさない」は低温で保管する、「やっつける」は加熱処理が対策の基本です。
    夏以外も油断せず、年間を通じて食中毒対策を積極的に行いましょう。
食中毒発生状況推移データはこちら[PDF]

微生物を抑えることの大切さ

これまで見てきたように、微生物には人にとって不利益な働きをするものがあります。これらの働きを抑えることで、次のようなメリットがあります。

食中毒のリスクを低減できる

食中毒菌の種類や症状について食中毒になると、下痢や嘔吐といった症状に苦しめられます。重症時には後遺症が残ったり、死に至る可能性もあります。
また、身体的な損失だけでなく、経済的にも大きな損失が発生することが考えられますので、できるだけリスクを低減することが重要です。

食品廃棄を減らし、食料資源の有効利用を図ることができる

腐敗や変敗を引き起こす微生物を抑えることで、食品の日持ちを長くすることができます。
これは食品廃棄(食品ロス)を減らすことにつながります。現在1,700万トンの食品が1年間に捨てられており、その5~6割が家庭からのごみであると言われています。
食品を捨てるのはどんな時であるかを調査した結果、「消費期限、賞味期限が過ぎてしまった時」や、「腐ったり、カビが生えてしまった時」などが上位を占めました。
参考資料
  • 食品ロスの削減に向けて(農林水産省、2013年)

バラエティ豊かな食生活に貢献

変化するライフスタイル

一人暮らしの若者やお年寄り、共働きの夫婦など、今や人々の家族形態やライフスタイルはさまざまです。それに伴って食の多様性が求められるようになりました。おいしく手軽に食事をしたいというのは、誰しもが望んでいる願いではないでしょうか。

そのような人々のニーズに応えるべく、加工食品は登場しました。保存料などの食品添加物、包装技術、製造環境の衛生化などが進歩したことで、加工食品の安全性はさらに向上しそのバリエーションを増やしています。
このように加工食品が普及したおかげで家庭での調理時間が減り、その分の時間を個人的な仕事や趣味にあてられるようになったのです。微生物コントロール技術は多様化した人々のライフスタイルを支える一助を担っているのです。
  • 01 食の安全を守るために
  • 03 食品添加物の役割と利用
  • 04 食品添加物の表示
  • 04 食品添加物の安全性

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